国際政治の専門家の中には現在の政治情勢を指して、「独裁者の時代」であると語る専門家がいます。

独裁者というとかつては東南アジアやアフリカなどの、発展途上国を支配する悪人というイメージがありますが、最近では戦後最長の長期政権を築き上げつつある日本の安倍総理や、毛沢東を超える神格化を目指す中国の習近平国家主席など、先進国でも極めて強力な権力を有し、長期にわたりトップの座を守り続ける政治指導者が増えているのです。

その代表格と言うべき人物がロシアの大統領を務めるウラジーミル・プーチンです。

プーチン大統領が最初に権力の頂点に上り詰めたのは、エリツィン大統領の辞任を受けて大統領代行を務めた1999年のことですから、かれこれ20年以上に渡って大国ロシアを支配しているということになります。

民主的な選挙制度を採用している国、それも先進国でこれだけの長い期間権力を守り続けるというのは極めて稀な事例です。

トップの座を守り続けている理由の一つは、政治的に敵対しているライバルたちやマスコミ関係者の暗殺も辞さない、強行な手腕にありますが、それだけのことでは大国ロシアの頂点に立ち続けることは不可能です。

やはりプーチン大統領の政治姿勢がロシア国民に魅力的であるからこそ、彼は今も大統領であり続けていると考えるべきでしょう。

それではロシア国民が熱狂するプーチン大統領の魅力とは一体何なのでしょうか?
それは「強いロシアを取り戻す」というスローガンを唱え、それを実際に実行しているということです。

皆さんもご存知の通り、ロシアの前身は第二次世界大戦後にアメリカと冷戦を繰り広げたソビエト連邦です。

アメリカ率いる西側陣営とソ連率いる東側陣営は、熾烈な諜報戦や発展途上国を舞台にした代理戦争を繰り広げましたが、最終的にはソ連は崩壊し東側陣営は敗北、以降の世界はアメリカを中心とした西側陣営によってリードされていきます。

そしてソ連が崩壊したのは1991年、まだほんの30年も前の話なのです。

当然ながらロシア国民の中には世界中の国々を支配し、アメリカに負けない隆盛を遂げていたソ連の黄金時代を知る人は今もたくさん生きています。

そんな人達にとって「もう一度強い国を取り戻そう」というスローガンは極めて魅力的なのです。

日本でも2012年の選挙で自民党が「日本を、取り戻す」というフレーズを使い大勝することに成功しています。

アメリカのトランプ大統領も大統領選において、強いアメリカを取り戻すと豪語して選挙に勝利しているので、こうしたノスタルジックな宣伝戦略の有効性は、相当なものがありそうです。

またプーチン個人も大衆の興味を引きつける魅力を持っています。

ハリウッド映画でもお馴染みのロシアの諜報機関KGBの出身という経歴は、プーチンの冷酷そうな容貌とあいまって抜群のダンディズムを発揮しています。

年齢的なこともあり肥満気味な体型の人間が多い政治家の中にあって、鍛え抜かれた肉体を持ち柔道とサンボを習得しているスポーツマンです。

銃の腕前も一流で視察中に野生のトラがカメラマンを襲った際には自ら麻酔銃を撃ち、カメラマンを救出したという逸話もあるくらいで、まるで映画の主人公のようですね。

その一方で自然を愛するナイスガイで趣味は釣り、無表情な冷血漢と見せかけてお喋りが大好きで、ジョークは大好物とくれば国民から人気が出るのも当然です。

近年はロシア経済低迷の影響などもあり、以前に比べると支持率も陰りが見えますがプーチン大統領が、ロシアの政治史において特筆されるべき、魅力的な政治家であるという事実は変わりません。

今後どこまで権力を保持し続けるのかにも注目です。